強いクライマーになるには(2)?

「幻の筋持久力」

筋持久力とは筋力を長時間発揮できる力です。これを鍛えるには、低負荷で回数を多くします。最大筋力の40%~60%ぐらいの負荷で1セットとして、15回~30回ほどで2セット~3セットを行います。インターバルは短く1分以内で行います。と一般的には言われています。そして、この「クライミングの研究」カテゴリでも、筋持久力について何度も議論してきました。しかし、そもそも、筋持久力って存在するのでしょうか。長手ものやルートで、同じ課題を繰り返してトライすると、どんどん楽になっていきます。これは、目標のルートをRPしたい時のプロセスでもあるわけですが。では、それは筋持久力がついたからなのでしょうか。私は違うと思います。それは、ムーブが洗練された結果、速筋より遅筋の使われる割合が多くなっただけなのです。それか、速筋の動員量を減らすことができたのでしょう。筋持久力が向上したのではなく、うまくなって、筋肉の使い方がかわったのです。サイズの原理により、人間は遅筋が先に使われます。遅筋は有酸素で収縮するので、疲れずらく長時間使えるからです。効率のよい方を使う人間のプログラムです。これは以前の記事にも書きました。また、残念ながら遅筋を鍛えるのはなかなか難しいようです。遅筋は常日ごろから使われているので既にトレーニングされてしまっている状態であるからのようです。そして、難しいルートは、大きな力が必要な核心までに、速筋を使いすぎ、疲労してしまっているため、いざという時に速筋を動員できないので、ムーブをこなせず落ちてしまうのです。そして、一般的に筋持久力トレーニングと言われている、40%~60%の負荷では速筋は鍛えられません。また、疲労がたまった状態では速筋は動員できないので、これもまた鍛えられないということです。強くなるには、疲労がない状態で大きな負荷をかけることなのです。だから、ボルダートレーニングで効果を上げるには、インターバルが必要です。インターバルがないと、疲労が残っていて速筋を動員することができず、トレーニングになりません。トレーニングの目的を明確にし、それを意識して行うことが大切だと思うのです。

(1) 強くなるためのトレーニング(ボルダー)
- ボルダー課題で、疲労がない状態で、大きな負荷をかける。
- 難しいムーブや力のいるムーブのコーディネーション能力を向上させる。
- フィジカルなトレーニングとなる。
- テクニカルなトレーニングも兼ねる。

(2) うまくなるためのトレーニング(長手もの、ルート)
- 比較的軽負荷のムーブのコーディネーション能力を向上させる。
- 軽負荷のセクションで力を抜いて登る制御技術を取得する。
- 主にテクニカルなトレーニングとなる。

そして、筋持久力に戻りますが、あえて筋持久力とは?と考えると、疲労物質の排除能力なのでしょう。即ち、毛細血管を発達させることなのでしょうね。力と言えば、力なのですが。やはり、筋持久力は幻のようですね。長手ものやルートトレーニングを筋持久力トレーニングと思われている方が多いと思いますが、それは違っていて、主にうまくなるためのトレーニングなのではないでしょうか。技術で、核心までをできる限り力を温存し、核心ではパワーを発揮する。前者のために(2)のトレーニングを行い後者をこなすために(1)のトレーニングを行うというアウトラインがあって、ただし、難しいムーブとかは力だけではこなせません。筋肉連動やバランス。ムーブの学習。それは、(1)のトレーニングの中で行っていくのがよいでしょう。先日の記事で、

ポテンシャル(筋力の出力)=筋肥大×神経発達(%)×瞬発力×持久力

なる式を引用しましたが、筋動員数が高いと、筋力維持時間は自然と少なくなってしまうのでしょう。筋動員数×持久力(維持時間)は実際は一定で、最後は筋肥大(絶対筋力)×瞬発力だけが残るのかもしれません。短い時間に大きな筋力を出すのか、少し弱い力を比較的長い時間維持するのかという、力の出し方として、解釈するのがよいのかもしれませんね。

最後に、よく絞りだしとか、ホールドが握れなくなるまで、トレーニングしたような話を聞きます。だけど、冷静に考えると、それは、ムーブは崩れるだけだし、ただ単に疲労を残すだけで、もしかしたら、逆効果なのかもしれませんね。どうも、我々日本人は、疲労感を感じないと充実感を味わえない、スポコン的な習性を持っているようです。疲労が残る。成果がでない。成果が出ないから激しいトレーニングを重ねる。疲れているから(速筋が動員されず)効果的なトレーニングにならない。さらに成果がでなくなる。さらに激しいトレーニングをする。そして故障する。こんな負の悪循環に入り込まないように、過剰トレーニングには気をつけましょう。

きん
by Climber-Kin | 2009-10-28 12:10 | クライミングの研究 | Comments(6)
Commented at 2009-10-28 20:37 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by 無名のK at 2009-10-28 23:14 x
新井裕己さんはヤマケイの登山技術全書で、スタミナ(持久力)を
(1) 乳酸をためない
(2) 乳酸がたまっても耐えて運動する
(3) 乳酸をすばやく分解する
の3要素に分けていますね。
私は絞り出しトレーニングに熱中した時期がありますが、ムーブを自動化してしまうので、(1)の技術を向上させる効果はあまりないような。(2)も自動化しているからこそギリギリのムーブをこなせるにすぎなくて、想定外のムーブを耐える持久力とはちがうような。(3)は向上した自覚がありました。
Commented by climber-kin at 2009-10-28 23:41
非公開コメントの〇〇〇〇さん、ありがとうございます。ブログ拝見しました。11後半あたりが一番苦しくて楽しいあたりだと思います。11cが何本か登れたら、12aが見えてきますよ。がんばってください。
Commented by climber-kin at 2009-10-28 23:52
k師、コメントありがとうございます。「(1)乳酸をためない」は、力を抜いて登るとか最適なムーブとか、ムーブの自動化とか、やはり技術的要素ですよね。「(2)乳酸がたまっても耐えて運動する」は、具体性がいまひとつわかりませんよね。「(3)乳酸をすばやく分解する」。結局これだけが残るのでしょうか。しかも、これもレストポイントで、どれだけ回復できるかということになるので、所謂筋持久力(筋力を長く維持する)こととは、違いますよね。だから、スタミナなんでしょうね。他のスポーツ界でも、この低負荷×多数の筋持久力トレーニングは疑問視されているようです。
Commented by NGM at 2009-10-30 10:20 x
ご無沙汰しています、NGMです。研究シリーズ、いつも楽しみに読んでます。
私はもともと長いルートは苦手でした。というのもレストが全く出来なかったので、パンプアウトするか登れるかどちらかという状態でした。最近はレストが出来るようになってきたので、長いルートが楽しくなってきました。登る技術とレスト技術。大して登れてるわけではないですが、ルートクライミングの醍醐味ってここにあるなーなんて思うこのごろです。
Commented by Climber-Kin at 2009-10-30 12:32
NGMさん、こちらこそ、ご無沙汰しております。コメントありがとうございます。強くなったのでレストできるようになられたのでしょう。今度は、いよいよカリスマですね。カリスマはまさにパンプして落とされるルート。ルートクライミングの醍醐味を楽しんできてください。私のカリスマは来年かな。奥さまにも宜しくです。
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