新・持久力の研究(2)

「踊るクライマー」

私は、所謂、筋持久力がありません。それを補えるかもしれないという期待もあって、持久力はテクニカルな要素が大きいのだと、この「クライミングの研究」の中で何度も繰り返してきました。それはそれで一つの正しい方向だと思います。ただ、これは全てのクライマーにとっても共通のアプローチなのでしょう。今回は、フィジカルな持久力(筋持久力)へ、もう一度戻り、我々筋持久力のないクライマー(以下、我々)が目指す登り方、そのためのアプローチを原点へ戻って。整理して、提案してみたいと思います。筋持久力がないと感じている同士(我々)は、ぜひコメントください。筋持久力のあるクライマー(以下、持久力クライマー)は読んでも意味がわからないと思います。素通りしてください。これまで、持久力とはなにかとか、遅筋や速筋とかの特性も調査したりしてきました。振り返りながら、考えを整理していくと、そもそも遅筋が少ないのに、筋持久力を高めようとする矛盾を感じるようになりました。それは、ないものねだりをしているような気がするのです。体質は各個人の個性であり特長であるわけです。その特長を生かした登り方を目指した方が、自然ではないだろうかと思うようになってきました。そんな原点に戻って、我々の登り方を見つけたいと考えるようになりました。私が何故、筋持久力がないかと言うと、逆に持久力クライマーの登り方をまとめるとよくわかります。その振る舞いや特長とは全く逆になっているわけです。体重が重いことが、それをさらに加速しているとも思っています。

〇 持久力クライマーの傾向
(1) レストポイントで回復できる
持久力のある人とは「レストで回復できる人」の一言につきます。両手を離せるような場所なら、我々も回復することができます。問題は、傾斜の中で片手づつ離せるようなシチュエーションで回復できるかどうかです。

(2) ゆっくり登れる
持久力クライマーは、長い間壁の中にいられます。ゆっくりした動作で登れます。その分、正確な足置きが可能です。大脳を使って考え、正確にムーブを起すことができます。また、ムーブに迷いが出ても、修正する余裕があります。

(3) 粘れる
そして持久力クライマーは、失敗して多少余分な力を使っても、そのあと回復してリカバリーすることができます。ムーブを探りながら奮闘的に登る。そんな粘りが可能です。

〇 我々の傾向
(1) レストポイントで回復できません
レストポイントと言われているところで休めません。1,2回腕をシェークするぐらいで、すぐに進みます。何故なら、レストできるどころか、そこに滞在していると、どんどん疲れてきてしまうからです。もちろんレスト技術もありますが、あきらかなレストポイントでも、我々は回復することが難しい傾向を持っています。持久力クライマーは有酸素で動くことができる遅筋でレストできているのです。だから、長く滞在でき、速筋を回復させられるのです。一方、我々は速筋を使ってレストしているのです。このシチュエーションで回復するには、最大筋力を上げて、最大筋力の少なくとも30%程度で保持できるようにすれば、血管閉塞しないので疲労物質を蓄積させず、さらに除去できれば、レストできるはずです。

(2) ゆっくり登れません
考えながら登れません。考えてムーブを起こすような迷いがあると、あっという間に終わってしまいます。ホールドの保持時間が長いと疲労します。だから、登るスピードが速くなる傾向を持ちます。完登できた場合も、気持ち的には、逃げ切れたとか間に合ったという感じになります。

(3) 粘れません
我々は1回の失敗が致命傷になります。そこで大きな力を使ってしまうと、それ以降の力のいるセクションを登れなくなってしまいます。1回の失敗のダメージが大きいのです。我々は、登り始めてから、時間とともにどんどん減っていく力をいかに少しづつ使っていくかという登りになります。我々は失敗すると、それをリカバリするためにフルパワーを出してしまいます。無けなしの筋持久力を一挙に使い果たしてしまいます。初見ルートでは、5mも登らずにパンプしてあっけなくテンションしてしまいます。粘れません

そして、筋持久力の強さというのは、生まれながらにして殆ど決まってしまっている特性なのです。マラソンランナーは決してスプリンターにはなれませんし、スプリンターがマラソンをがんばっても…。まぁ、これは筋持久力だけの問題ではないのですが。トレーニングにより筋持久力の多少の向上をはかれます。一部の速筋(もともとは遅筋だったが環境により速筋の働きをするようになった筋肉)を遅筋へ戻すことができます。しかし、筋持久力を大きく向上させることは難しいのです。ですから、我々は持久力クライマーと同じようなスタイルで登っては、よい結果を出すことはできません。我々は、目的の課題を完登するには、テクニカルな持久力をより向上させる必要があります。また、オンサイトやらフラッシュは持久力クライマーが狙えることです。彼らにまかせましょう。我々はオンサイトなんて眼中にありません。RPで十分です。しかし、我々は目標の課題、特に限界グレード帯の課題をRPするためには、ムーブを全自動化する必要があります。そのために何便も何便もリハーサルし、改良します。持久力クライマーの感じるレベルの自動化では全く足りません。限界グレードでは完全な自動化が必要です。流れるように、踊るように。リズミカルにスムーズに。呼吸もあわせて。全く失敗のない10点の演技が必要なのです。そう、我々のゴールは目標ルートをダンスするように登ることなのです。それを実現する我々のアプローチを提案します。

[1] 最大筋力アップ
筋持久力がない。そして、つかない我々の残された道は、最大筋力を向上させることです。大きな筋力を持ち、その力を技術によって、出し惜しみしながらできる限り長い時間使います。筋持久力トレーニングをしても、そもそも遅筋が少ないので向上しません。最大筋肉を向上させることと、完全自動化による力をセーブした登りとを組み合わせることにより、血管閉塞を軽減し、到達距離を伸ばして行きます。そして、最大筋力を向上させることで、レストができるようになります。持久力クライマーとはレストで使っている筋肉が違っているのです。殆ど速筋でできている我々がレストするのにも最大筋力の向上が必要なのです。

[2] ボルダー力アップ
レストできない我々は、かなりよれた状態。または、ある程度パンプした状態で核心ムーブをこなさなければなりません。持久力セクションを越えた後に核心ムーブが出てくるルートは、持久力クライマーの体感グレードよりかなり難しく感じるはずです。よれた状態で核心ムーブをこなすためには、その核心ムーブより、かなり難しいボルダー課題をこなせる力がないといけません。我々は持久力クライマーよりボルダー力を上げる必要があります。目標のルートでいろいろなムーブの中から最適なムーブを選択できるようにするために多彩なムーブを習得するという観点からも重要です。

[3] 動的ムーブの採用と初動負荷理論の応用
我々は、筋肉に長い時間負荷が掛かるスタティックなムーブより、バランスのよい状態で初動時に短い時間負荷をかけて、動エネルギーを作り、そのエネルギーで次のホールドへ向かうダイナミックムーブの方が疲れません。これは持久力クライマーから見ると全く理解できないことかもしれませんが、我々は動的ムーブを積極的に採用していくべきです。動的なムーブは「ため」が有効です。リラックスした状態で「ため」を作り、脳のシナプス(パルス)を押さえます。化学エネルギーを貯めた状態を作って、次の瞬間に短い時間(初動動作)に神経パルスを集中して筋肉に伝え動作させます。そして、最小限に必要な動エネルギー(速度)を作ったら、すぐに力を抜きます。力を抜いた状態で次のホールドへ向かいます。スピードは重力により除々に落ちていきます。次のホールドを捉えた時にスピードがゼロになります。大きな力が必要でもその稼動時間が短いと疲労度は少ないと感じてます。一番バランスのよいポジションで動エネルギーを作るので疲労度が少ないのです。また、動的ムーブは次のホールドを取った際の反動に注意しなければなりません。この反動を抑える時に疲労してしまっては本来の目的からはずれてしまいます。次のホールドを取るタイミングで正確なデッドポイント(無重力状態)を作る必要があります。デッドポイントとはムーブの種類のように使われていますが、そのデッドポイントを唱えた故ギュリッヒ氏の「クライミング上達法」を読んでください。デッドポイントとは無重力状態のことを差しています。ホールドを取る瞬間は速度=0になるようにします。このデッドポイントで次のホールドを捉えれば、反動はゼロです。我々はこの動きを習得するために、常日ごろからムーブを洗練させる必要があります。動的なムーブは空間的な要素(距離)と時間的な要素(速度)に正確性が必要なため難しいムーブなのです。日ごろから動的ムーブを行い、体に学習させて自分のムーブにする努力が必要です。

[4] 完全自動化
我々は、限界グレードの持久力ルートに直面した時、長い時間をかけて完全自動化する必要があります。余裕があるルートや我々でもレストができるルートは比較的少ない便数で登れますが、それでも持久力クライマーよりは多くの便数と日数が必要です。これもある意味スキルです。常日ごろから、自動化するスキルを上げましょう。長手ものボルダー課題とかは、この自動化スキルを向上させるよい練習でしょう。完全自動化により、動きが先行していくことで、踊るように登ります。ムーブを考えてはいけません。我々は大脳ではなく、小脳で登ります。スクリプトに従い、もう1人の自分が自分を操るように、「観の目」の境地を取得しましょう。また、ムーブを作る際に、できる限りシーケンスが途切れないようにムーブを組み立てましょう。一度作った動エネルギーをできる限りとめないような組み立てが有効です。所謂、「流れるムーブ」です。足の踏み替えでフリムーブを連続させると動きは、その都度とまってしまいます。二軸ムーブも積極的に採用して、動エネルギーが止まらないようにシーケンスを組み立てましょう。

[5] 速く登る
そして、完全自動化することにより、早く登ります。我々は長い間壁にいると、どんどん疲れてしまいます。躊躇する時間、フットホールドに迷う時間をとにかく減らします。また、小さな数手より大きな一手のムーブを選びます。我々は、こまめに刻むより、大きなムーブで速く登った方が楽です。ただ、早く登ると言っても、こまめに腕を下げることを怠ってはいけません。腕を上げたままでは、あっと言う間にパンプしてしまいます。シーケンスとシーケンスの間では、必ず腕を下げて手を振りましょう。ただ、速く登ると言っても、息が上がってしまっては、どうしようもありません。適切な速さがあります。注意してください。また、終始、呼吸することに注意しましょう。呼吸しながらムーブを起こしていれば、それほど力は入らないはずです。

[6] あきらめない努力
我々は、目標の課題を登るために、持久力クライマーより多くの努力を行わなければなりません。自分より後からトライを始めた持久力クライマーが先に完登してしまうことなんて、いつものことです。だけど、あきらめずに地道に自動化とムーブの改良の努力をして、ついには完登できるように頑張りましょう。苦しいですが、登れた時の喜びも大きいはずです。ただし、注意しなければならないことがあります。ムーブができた時が登れる時は持久力クライマーのみの特権です。我々が、数回トライして、ムーブができないルートは、まだ次期尚早です。我々はテンションかけてなら全てのムーブができるが、それを繋ぐことが難しいのです。核心ムーブの手前に持久力セクションがある場合、初期の段階でも核心ムーブができないようなら、そのルートを登ることはかなり困難であると推測されます。さらなる力とボルダー力をつけてからの将来の課題としましょう。また、我々は後半に核心がでてくるタイプのルートは苦手です。最初に核心が来て、その後持久力セクションのタイプの方が登り易いでしょう。また、所謂持久力ルートより、ムーブの難しさでグレードを決めているタイプのルートの方が登り易いはずです。目標ルートを決める際に考慮したほうがよいでしょう。

[7] オンサイトトライに関して
我々は、オンサイトグレードを上げようという考えは捨てましょう。オンサイトをクライミングの目標にしてはいけません。根本的に苦手なのです。オンサイトトライはムーブを見つけながら登るため、ルート内の滞在時間が当然長くなってしまうからです。だからと言って、オンサイトグレードが低いことを嘆く必要はありません。RPグレードが上がり、その結果により、オンサイトグレードが上がる。ただ単に結果として捉えましょう。もちろん、途中に完全レストポイントがあるようなオンサイトしやすいルートなど、狙える時は狙っていきましょう。オンサイトは気持ちのよいものです。

我々は、持久力クライマーと同じアプローチや同じ登り方をしても、成果を出すことは難しいのです。多くのクライマーは持久力系であり、クライミングのトレーニング方法の殆どは彼ら持久力クライマーが考え、それに向いたトレーニング方法なのです。それを真似ても、うまくできなかったり、伸び悩み、苦しんでいるのではないでしょうか。我々には、我々に向いた登り方があり、それに向けたトレーニング方法があるのだと思います。「踊るクライマー」とタイトルをつけましたが、正確に表現すると「踊らないと登れないクライマー」ですね。研究は続きます。で、「あなたは踊ってますか?」

きん
by Climber-Kin | 2010-02-18 12:07 | クライミングの研究 | Comments(16)
Commented by 無名のK at 2010-02-18 20:22 x
「我々は大脳ではなく、小脳で登ります」は我々(笑)を勇気づけるアフォリズムですね。持久力ルートクライミングの世界では、我々はJrヘビー級レスラーがヘビー級レスラーに戦いを挑むような立場にいるわけですが、傍目には逆に見えるのが悲しいところです。グレード的な満足感を得るには、得意系(遠いガバの短いどっかぶり?)で突っ走るしかないかも。
Commented by もっちん at 2010-02-18 21:54 x
的確な分析です。 
俺も高グレードルートのRPの時はいつも、ノーレスト、ノーシェイクです。 
登り出したら、リズムを止めないように一気に登ってますよ。
それが、我々のクライミングスタイルなんですね。
Commented by JILL@ at 2010-02-18 22:05 x
まさに私のことです。ガバを持っていると疲れてしまう。持久力系のルートの時は、レストの練習もしないとRPできない…。結局勢いで登らないとRPにならないという結果です。チョークバックはRPの時はただぶらさげているだけのことがほとんどです。
Commented by Climber-Kin at 2010-02-18 23:10
全てを悟っているK師、登れるルートと登りたいルートが必ずしも一致していないですからね。登れるルートでモチを保ちながら、苦手ルートも登って行きたいです。K師も苦手な二子のルート、一緒にトライしましょうよ。
Commented by Climber-Kin at 2010-02-18 23:25
MOTさん、どうもです。城山の課題はどうですか。自分のスタイルを見つけることが一番大切ですよね。原点に戻って、整理してみました。腑に落ちた気がしてます。同じような感じで登っている人がいるんだと勇気付けられました。コメントありがとうございました。我々は間違っていないんだと思います。持久力クライマーに負けないように、頑張りましょう。
Commented by Climber-Kin at 2010-02-18 23:32
JILL師匠もやっぱりそうでしたか。有笠のヘルケーブで登りを拝見した時、同じ匂いを少し感じてました。だけど、とても難しいルートは持久力クライマーも休めなくなるようです。遅筋ではレストできなくなるようなルートなら、条件は同じになるはずです。我々の可能性を信じて、がんばりましょう。
Commented at 2010-02-19 01:00 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by Climber-Kin at 2010-02-19 12:35
非公開コメント様、コメントありがとうございます。それも我々の特徴の一つですね。リーチが長いということは体重も多いし、相対筋力もより必要になるし、狭っ苦しいムーブや小さなホールドにはいつも泣かされるているし。リーチがない人は不利なのですが、そのかわりに、体重は軽め、保持力と持久力には有利な傾向ありますすよね。リーチと体重に負けないように、もっともっと力をつけたいです。
Commented by ○べ at 2010-02-19 22:33 x
速筋系な私が思っていることはクライミングはパワーウエイトレシオが重要なのではないかと・・・なので最大筋力アップは筋肉量の増加すなわち体重の増加になるのでパワーウエイトレシオ的には変化なしだと思います。ということで一番効果ある方法はダイエットして体重を軽くすればパワーウエイトレシオも向上するのではないでしょうか。私の実体験から言うと冬場に体重増加するとあきらかにパフォーマンスが低下してます。
コンペにでるようなかたも大会前は減量するそうですからダイエットはそれなりに効果的だと思います。
Commented by マル金 at 2010-02-20 07:32 x
ご無沙汰しております。

このブログは、いつも拝見しております。

それにしても、すばらしいご見識ですね。

おいらも、このレポートを参考に、細々とクライミングを続けていこうかなと思いました。

最近、クライミングの低迷が顕著で、やめちゃおうかと思っていたので・・・。(^_^;
Commented at 2010-02-21 23:06 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by Climber-Kin at 2010-02-22 00:17
〇べちゃん、パワーウェイトレシオは重要だよね。ただ、必要な筋肉をつけるのだから。例えば極端なたとえだけど、前腕の筋肉が30%重くなって、1.3倍保持力が上がっても、体重は1.3倍にはならないからね。必要な力をパワーアップすればいいんじゃないかなぁ。体重はみんなの課題。減らしたいね。
Commented by Climber-Kin at 2010-02-22 00:28
マル金さま、こちらこそ、ご無沙汰しております。今年は二子にいらっしゃらないですね。たまには寒ーい二子へ来てください。休めない難しいルートは、みんな、こうなっちゃう傾向にあると思うのですけど。少し味付けして戦略的な雰囲気で書いてみました。オリンピック中でもあるので、クライミングにも演技点をつけてみてはどうでしょう。到達点xxm、演技点はxx点とか(笑)。
Commented by Climber-Kin at 2010-02-22 09:51
非公開コメント様、そうですよね。リーチに見合った筋力(体幹と保持力)をつければ、鬼に金棒になると思います。反面、力が弱いとリーチが弱点になってしまうような気がしています。特徴を生かすも殺すも自分達次第ですよね。アッキーくんとか、それを見事に成功させてますよ。お互い、がんばりましょう。
Commented by ○べ at 2010-02-23 01:43 x
きんさんへ、田畑プロトコルって知ってますか?
20秒高強度→10秒インターバル の間欠的運動を8セット行うことで、最大酸素摂取量(有酸素能力)と最大酸素借(無酸素能力)を短期間で強化できるトレーニングらしいのですが実験台になってみてください(笑)
Commented by Climber-Kin at 2010-02-23 12:32
○べちゃん、それって、10手ぐらいの3級ボルダー課題を10秒おきに8本登るってことと同じじゃん。手軽にできるね。○べちゃんには、今流行りの加圧トレーニングの実験台になってもらいたいな。
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