重きものクラブ

「重きものクラブ」と「重きもの」のトレーニング方法

T-WALL東村山で、ノリノリさんやだんご姉ぇさんたちがご自身達を「小さきものクラブ」と言っているようだ。そのネタにのると、私は「重きもの」、「重きものクラブ」ということなる。「小さきもの」とは、たぶんリーチが短くて、普通のリーチの人なら簡単に取れるホールドなのに、それを取るために、難しいムーブを強いられる。その不利な条件(ディスアドバンテージ)を共通に持っている者の集まりということなのだろう。その反対の意味だと「リーチ長きもの」になるのだろう。リーチが長いと、有利な点も多いが、狭くてムーブを難しくなる、不可能と言った不利なことも多々あるのだが、一般的にはアドバンテージ的な印象が多い。ディスアドバンテージという意味では、「重きものクラブ」というのが同類になるのだろうか。我々、いやいや、私のような「重きもの」、即ち重系のクライマーは、よく軽系はいいなぁと口にする。重系とは太っている痩せているということではなく、骨太系か骨細系かがあてはまるような気がする。骨太系はどんなに痩せても、骨格までは軽系にはなれない。殆ど遺伝的に決められている運命だ。遺伝的と言えば、クライミングにとって、パフォーマンス上、最も大きなインパクトを持つと言っても過言ではない筋持久力の強さもかなりの部分を遺伝的に決められているようだ。文献によると、それを考慮して種目を選べときている。そんなこと聞きたくなーい。まぁ、レジャーとしてクライミングをやっているので、私はそこまで深刻ではないのだが。話を戻すが、重系がかってに思ってる軽系のアドバンテージは、以下の項目ではないだろうか。
・軽いので、筋力を使わないで済む。
・当然長時間粘れる。長時間壁の中にいられる。
・スタティック動作が多い。言い換えると、長い時間を要するスタティックなムーブに耐えられる。
・指の負担が軽い。
・だから、指の故障が少なそう。
・カチ持ちが強いまたは得意。カチ持ちが似合う。
要は持久力(クライミングにおいて、持久力とはいったい何か、非常に難しくて抽象的なのだが)で有利だと思っていることだろう。軽系でパワーも持ち合わせている人は、とてつもなく強いのだろう。うーん、何人か思いつく。一方、反対の重系は、ディスアドバンテージが実に多い。
・指の負担が大きい。細かいホールドに弱い。
・だから、指をよく故障する。
・長い間、壁にぶら下がっていられない。
・当然持久力系ルートに弱い。
・速筋が多く、筋力と瞬発力があるが(ただ、重さで相殺されてしまうのだが。)、乳酸発生量が多いのでパンプしやすい。

だから、私が思うには重系は、普通に持久力トレーニングしても決して軽系を上回ることができないはずだ。苦手な持久力トレーニングしても、たかがしれてる。だから、そのディスアドバンテージをカバーするために、優位性をさらに伸ばすことの方が効果的ではないかと考えている。そして、次のアプローチが重系には有効なのではないだろうかと私は常日ごろから思っている。重系は、一般的と思われている、軽系(たぶんクライマーはこちらの方が断然多い)の人と同じようなトレーニングを行っても、効果が薄いと思っているし、異なるトレーニングが効果的だと信じているのである。クライミング界のトレーニングの常識は多分、メジャーな軽系の人に適した方法なのだと思っている。そして、私の思う重系のトレーニング方法、いや戦略は、以下になる。
(1) 大きな筋肉でホールドを抑える技術を磨く。
(2) 初速を有効利用する。
・重系は、中ぐらいの力を長くかけるより、強い力を短い時間だけかける方が楽。インバランスで初速をつけて、そのエネルギーで次のホールドまで体を移動させる方が楽だ。血管閉塞時間を短くする戦略だ。だから、軽系の人がやっているように、ゆっくりしたスタティック動きで長手ものをやってると私はあっという間に、前腕が張ってしまう。これも軽系の人の常識ではあっても、重系には当てはまらない典型例ではないだろうか。感情的には、ゆっくりした動作でスタティックに次のホールドを取っていくエレガントなクライミングにあこがれるのだが。
(3) ムーブを速くする。
・アウトバランス状態でのダメ-ジが大きいので、インバランスからインバランスの間のムーブ時間を短くする。これは初速利用とのコンビネーションがとても効果的だと思う。無酸素ムーブ時間の短縮。
(4) 耐乳酸性向上
・乳酸を発生させる最大筋力の60-80%を使うムーブが必要なボルダーをたくさんやる。課題トライの間のインターバルをあまりとらない。毛細血管を発達させる。筋肉肥大を伴わないで最大筋力を上げるには、90%以上の負荷を行う。本当はキャンパシングが有効なのだが、おもしろくないので、やってられん。
(5) 乳酸発生量の軽減
・遅筋を発達させることなのだが、それには50%程度の負荷の課題を長時間行うことになるのだが、トレーニング時間のない我々はそんなことやっている暇はない。それより、他のトレーニングした方が限られた時間でのトレーニングと考えた場合、効果が高いと信じている。(ちなみに、長手もので何周でもできるような課題はムーブ学習系トレーニングにはなるかもしれないが、筋持久力トレーニングにはならない。)。3-4級のボルダー課題をインターバル空けずに続けて、たくさん行う。

とりあえず、今回はこれくらいで、異論反論あるでしょうが。ご意見ください。私は重きものクラブを開設し、ヘビークライマー代表として、上記の仮説を実証するために、短いボルダ-中心にトレーニングを積んでいます。その結果はいかに。答えは数年後に。

そして、がんばれ、「重きもの」たち、「小さきもの」たち。


○ 筋持久力を決める要因 (http://www.kentai.co.jp/column/physiology.htmlより)
 筋持久力を決める生理学的要因は、筋線維組成と筋内循環と考えられています。筋には大きく分けて速筋線維(FT)と遅筋線維(ST)がありますが、これらの割合を筋線維組成と呼び、通常遅筋線維の割合(%ST)で表わします。STは、酸素を用いた効率の良いエネルギー生成を行なうため、絶対的パワーは小さいのですが、持久力が高いという性質があります。したがって、%STが高いほど、低強度での持久力が高いことになります。一方、筋内の毛細管が発達していて筋内循環がよければ、速筋線維の収縮に伴って生じる乳酸などの代謝産物をすみやかに除去できる上、遅筋線維にも多くの酸素を供給することが可能です。したがって毛細管の良好な発達は、低~高強度にわたる範囲の筋持久力にとって重要といえます。

○ 運動による筋線維組成の変化:新しい見方 (http://www.kentai.co.jp/column/physiology.htmlより)
筋の発生に関する最近の研究から、およそ次のようなことが分かりました。筋線維のもととなる筋芽細胞は、発生の早い段階で速筋線維になるべきか、遅筋線維になるべきか、遺伝子によって決定されています。しかし、発生の途中で、神経を除いたり、筋の活動を抑制したりすると、誕生時には、本来遅筋線維になるべき筋芽細胞が外見上速筋線維になってしまいます。このことから、「トレーニングによって速筋線維が遅筋線維的になる」というより、「遅筋線維になるべきものの一部が、活動不足などが原因でたまたま速筋線維になっていて、トレーニングによってそれらが本来の発生運命を取り戻す」ことがむしろ正しいと考えられます。

きん
Commented by papinoko at 2007-10-19 11:10 x
お久し振りです☆突然ですが、当方、「重きものクラブ」入会希望です!(会員募集してないかもしれませんが^^;)身長163センチにして体重55キロ前後。他の女子クライマーのみなさんより明らかに重い&デカイです。幸い指力が強い&柔軟性が高いおかげでなんとかごまかせてますが、次のステージへのステップアップのためにはこのままじゃだめかなと。なのでKINさんの重きもの戦略を読んでなるほろー!とやる気ムクムクです。今んとこまずは足の怪我を完治させることが先決ですが、工夫して出来ることをやってみようと思います。
Commented by Climber-Kin at 2007-10-19 11:33
パピノコさんお久しぶりです。きましたね。
重系:重い->高負荷->速筋発達(力大)->乳酸多->パンプ易
軽系:軽い->軽負荷->遅筋発達(力小)->乳酸少&高除去能力->パンプしない
というシナリオになりやすくなっているのだと思います。体の特性が違うのですから、やはり異なるトレーニングが必要なんだと思うのです。一緒に研究しましょう。
Commented by ゴン助 at 2007-10-19 12:44 x
昨日パンプ2に行って、どっ被り12aトライしたら、また登れませんでした。もう5便も出しちゃいました。やってないと遅筋(英語のチキンを思い出すのであんまりいいイメージじゃないですね)は退化しますね。特にインドアジムルートは通ってないと登れないですね。
ところで、自分の進歩を定量的に見るために評価式なるものを導入するのはいかがでしょうか?例えば、
Prs = (Gr + Cp)/ (R + α)  ---> 大きいほど進歩した。
ここで、Grはグレードでグレーディング値から決める(1刻み)。Cpはグレードの補正係数で、皆さんの評判からやさしめなら-0.5ずかしめなら+0.5など。NDDは+1.5くらいか?Rはかかった便数、αは便数の補正値で濡れていたり、条件が悪かった場合の補正。補正は大分主観が入るのはやむをえませが。
すごい自己満足の世界になりますが、以上、理系の戯言でした。あまり気にしないでください。 
Commented by Climber-Kin at 2007-10-19 13:22
ゴン助さん、そうなんです。重系は退化してるんですよ。

遅筋が多くても、血管閉塞させちゃうと乳酸除去できないし、最大筋力を上げるには速筋だし、力を使いすぎるのは筋力だけの問題ではないし、クライミングの筋力トレーニング的な議論は難しいですね。問題は、体質によって、どちらのトレーニングを重視した方が効率的かですかね。ムーブ的な議論の方が具体的でおもしろいですね。
評価式ですが、グレードには重み付けとマイナスオフセットをつけておかないと、11前半ばかり登った方が値が大きくなってしまいそうですね。たぶん、我々だと、11cぐらいを基点にして、1グレードアップにx1.5ぐらい重み付けする?いずれにしろ、各ルートの補正がめちゃくちゃ難しそうです。
Commented by Climber-Kin at 2007-10-19 13:29
ゴン助さん、答えを言ってなかったですね。たぶん、遅筋を増やすアプローチと血管閉塞量を減らすアプローチがあって、重系は後者の方が効率がいいのではないかというのが今回の仮説です。それは、ダイナミックムーブ、初速を利用したムーブとの相性もいいと思っているからです。
Commented by ゴン助 at 2007-10-20 00:28 x
例えば、11cやdを毎週1本以上登れる人は、月に1本の12aを登れるくらいの能力があると思いますから、結果的に評価点が同じになってもいいとは思います。しかし、大抵のクライマーは結局、高グレードを追いかけますから、タイムスパンを区切りれば、結果的には12クライマーは12クライマーの、11クライマーは11クライマーのスコアが出るんではないでしょうかね。
Commented by こーたろー at 2007-10-21 16:24 x
きんのアニキ オイラは「軽きもの」ってところかい?残念ながら「軽きもの」も指は故障するぜ。しかもほんのちょっとのウェイトアップが指にくる事を身をもって体験してるよ。
遅筋か、オイラにとって「パワー」はステップアップへの大きな課題さ。ありがとよ。
Commented by climber-kin at 2007-10-21 18:43
兄弟、軽系には軽系の悩みがあるよな。パワーつけてぇーなー。
by Climber-Kin | 2007-10-18 09:50 | クライミングの研究 | Comments(8)

 弱いわりには頑張っている、還暦を迎えた初老クライマー。体力と気力の衰えを感じながらも、13を10本!を登りたいなぁ。12以上100本も達成したいな。を目標にがんばっている日々を綴るクライミング日記。でも、最近はハイキングと沢登りばかりです。


by ヘビークライマーきん