持久力について再考(2)

[1] 遅筋(ST)と速筋(FT)のおさらい
筋肉には遅筋(ST)と速筋(FT)があることは何度も言及してきたました。また、遅筋(ST)と速筋(FT)の比率は遺伝で決まっており、人間では環境や運動によっても変えることができないらしいです。また、この速筋には、さらに、大まかに3つのサブタイプがあるようです。遅筋をI、速筋をII、サブタイプをa、b、cでわけると、それぞれの筋肉の速度とパワーは次の関係になるようです。実際はもっとたくさんのサブタイプがあらしいです。
IIc>IIb>IIa>I
速筋のIIcタイプは殆ど存在しないらしく、IIbかIIaで占められているようです。遅筋はスピードに乏しく、大きな力は発揮できませんが、有酸素性代謝活性が高く、長時間に渡り力を維持することができます。速筋は大きな力と速さでダイナミックな動きを表現できますが、持久性に乏しいという特徴があります。ところが、速筋でも、持久力トレーニングを行うと、IIbはIIaへ転換するとのことです。このIIa線維は、スピードと持久性もそこそこ兼ねそなえたオールテマイティー筋線維で、有酸素性代謝のためのミオグロビンやチトクロームを適度に持っているそうです。そして、運動や環境によって、IIbとIIaは容易に数週間の間で転換が可能だということです。

エアロビクスの低強度のトレーニングでは、タイプII線維は殆ど使われないそうです。高強度のトレーニングを繰り返し行い、大きな筋力を発揮したり、すみやかに筋力を回復させたりすることが必要になってくると、タイプII線維が使用され、かつタイプIIa線維が増えてくるということのようです。

[2] サイズの原理
サイズの原理というのがあるらしく、これは、負荷が小->大において、まず、小さな筋肉から使われはじめ、負荷が大きくなるに従って、大きな筋肉線維を使うようになるというエネルギーを節約するには大変よい方法を行っているようです。そして、小さい筋肉とは遅筋(ST)で大きい筋肉は速筋(FT)になるようです。この原理とIIaとIIb線維の特性から、最大筋肉を高め筋肥大を行うには無酸素かつ大きな筋肉であるIIb線維を活動させるために、80%前後の大きな負荷トレーニングを行うことになります。筋持久力をつけるには、速筋が活動する30%から60%の負荷を長時間行うことで、IIa線維を増やし、有酸素代謝と毛細血管を発達させるということになるわけです。
また、最近の研究で、このサイズの原理の例外が3つあり、それを応用したトレーニングがあるようです。
(1) エキセントリックトレーニング(クライミングではクライムダウン等)
所謂、筋肉を伸ばしながら負荷をかける状態。これは軽い負荷でも、筋肉を伸ばすというのは神経系には非常に難しく、体を守るために急激な負荷が発生する可能性もあるため、負荷が軽くても速筋(FT)を使うようです。確かに、クライムダウンするとあっと言う間に腕張ってしまう。疲れるといった経験がたくさんあります。筋力トレーニングとしては有効ですが、実際のクライミングではあまりしない方が得策なのかもしれません。
(2) バリスティックトレーニング(弾道曲線のように負荷をかける)
軽い負荷でも、猛烈に加速させる場合、速筋(FT)が使用されるようです。クライミングにおいても、あまりに速すぎる動きは、かえって疲れてしまうということでしょう。
(3) 加圧トレーニング
最近はやっているみたいです。血流を阻害した状態で軽い負荷トレーニングを行うと、無酸素状態となるので、強制的に速筋(FT)が使われるようです。
これらは、あくまでトレーニング方法なので、このような動きは実際の登るためや完登するためのクライミングではやらない方がよいということでしょう。

[3] パンプの原理
筋肉の中の血流は、筋肉の収縮の仕方に依存して変わります。よく知られているのが、筋力発揮のレベルと血流との関係です。トレーニングで繰り返し筋力を発揮するような場合、最大筋力の30%程度まででは、運動中の筋内の血流量が顕著に増えます。ところが、負荷を増し、もっと力を発揮すると、筋内圧の上昇によって静脈圧が増し、血流は減少していきます。80%以上の力を発揮すると、こんどは筋肉が血液をしぼり出したような状態になり、「局所性貧血」になるようです。筋肉が活動するとエネルギーを使います。すると、乳酸や二酸化炭素などの代謝産物が生成されます。これらは、筋線維から運び出されると、毛細管の透過性(水などの通りやすさ)を増し、動脈を拡張させるようにはたらきます。このような状態で運動後に静脈圧が急降下すれば、筋内は血液が通りやすくなっているので、代償的に過大な血液が流れます。さらに、筋線維の間の空間には代謝産物がたまり、浸透圧が高くなっているので、血液から血しょう成分が侵出してきます。その結果、筋肉が「水ぶくれ」になるということのようです。確かに、難しいムーブやセクションで、力を長くいれて、ようやくレストポイントで、腕を交互に休ませた時やテンションした時などに、急激にパンプする経験がたくさんあります。
(以上、健康体力研究所解説を参照)

[4] クライミングへの適応
(1) 保持力
多分であるが、遅筋(ST)を使う。言い換えると速筋(FT)を使わない程度の負荷で保持できることが理想であろう。そんな状況なら何時間でも登り続けられるということだ。ところが、悪いホールドや被った壁では速筋(FT)のIIa線維を使わざる終えない状況が発生してくる。やはり、速やかにそのセクションを通過し、低負荷で維持できる状況(レストポイント)になることなのだろう。また、その耐負荷量によって、レストできるか疲労が進行するのか。腕を交互にシェークすることで、筋肉内の代謝物を除去できるかが回復できるか否かという運命の分かれ目になることに。

(2) 負荷×スピード
負荷時間を短くすべきである。だが、サイズの原理の例外にもあるように、筋肉の動作速度を早くすると、軽負荷でも速筋(FT)を使ってしまう。そして、最もトレーニング効率がよい組み合わせが35%だということらしい。筋力アップトレーニングでは、これは一定の負荷をかけつづける状態(終動負荷)で行うということである。つまり、クライミングにおいては、それは逆の効果であって、そのような動きはあまり得策でないということだ。エネルギー効率を上げる方法が初動負荷理論である。これは筋肉トレーニングを行う終動負荷の逆の動きであり、それは負荷コストが低くエネルギー効率がよいことを意味している。一般的なスポーツ(格闘技系を除いて)、初動負荷理論を応用して運動を行うことにより、筋肉量(体重)を減らして、運動能力を上げているのである。そうでないと、クライミングでも、ボティビルダーが最も強いということになってしまうわけである。よって、ボルダ-において、初動負荷理論を使ったダイナミックなムーブを修得することがエネルギー効率をよくし、少ない筋肉(体重)でパフォーマンス(ムーブ)をこなせるようにすることが有効であると思うわけです。ここまでの項目をまとめた時にクライミングのイメージは、
「バランスのよいインバランスなポジション(インポジション)で、リラックスした状態から、一挙に筋肉を収縮させ、短時間で動エネルギー(速度)を作り、次のホールドへ向かって近づいていく。速度は徐々に減速され、次のホールドを持った瞬間にゼロ(デッドポイント)になる。ホールドを保持したら、できる限り腕を伸ばし、力を抜いて保持しながら、足と体を動かし、次のホールドへ向かうためのポジション(インポジション)体勢を速やかに取る。そして、また初動で動エネルギーを作り、次のホールドへ」というのが私のイメージです。所謂、流れるような動きをさすのだと思います。これは難しいムーブをこなす方法としても、とても有効だと思っています。よいバランスの状態で保持している際に、力をなるべく抜き神経電気パルスを減らし、次に行う非常に大きな瞬発的なパワーを出すために、神経を伝達する電気(化学)エネルギー蓄えて、次の瞬間に一気に電気パルスを送り出し、たくさんの筋肉を素早く連動させる。化学変化でニューロの電気パルスを作っているわけですから、この一時的な力を抜いた状態で伝達パルスを蓄えるのと同時に、ムーブにおける所謂「タメ」と同時に行うことは、非常に効果が高いと信じてます。

(3) クライミングの筋持久力トレーニング
有酸素代謝を行える速筋(FT)IIa線維を増やすこと、素早く代謝物を排除するために、筋肉内の毛細血管ネットワークを発達させること。これは、クライミングに限らず、主な方法は、30%~60%の負荷を長時間かけることでしょう。やはり、長手ものやジムルートは有効でしょう。ただし、レストポイントが多い場合は異なる意味のトレーニングになってしまうし、クライムダウンが厳しい長手ものは持久力トレーニング以上の負荷になっていることもあるので注意がいるのかもしれません。

[5] 結論
クライミングにおける持久力とは何かということを何度も検討してきましたが、なかな整理できませんでした。とりあえず、フィジカルな面での筋持久力と初動負荷理論については、自分なり整理できたかなと思います。その結論として、私のような速筋クライマーでもトレーニングをすればIIa線維を増やして、筋持久力を上げることができるということ。長手ものやジムルートクライミングや、ボルダ-課題連続登攀等々は筋持久力を上げるために有効なので、平日トレーニングにも取り込んでいきたいと思ったのでした。限られた時間のなかで、フィジカルなトレーニングと協調性のトレーニングをどううまくこなしていくかということは、まだ全然わかりません。今後も引き続き考え、そして試行していきたいと思います。

きん
Commented by 鈴木牧え at 2008-03-01 23:08 x
きん様、SVPのRPおめでとうございます。
お互いRPの場面を見ていませんでしたね(笑)。
理論の実証ですね。
今頃は飲み終わってお休み中でしょうね。
Commented by climber-kin at 2008-03-03 00:18
鈴木牧えさん、ありがとうござます。苦労して勝ち得たRPの喜びもつかの間、さらなる課題が。がんばります。
by Climber-Kin | 2008-02-29 12:14 | クライミングの研究 | Comments(2)

 弱いわりには頑張っている、還暦を迎えた初老クライマー。体力と気力の衰えを感じながらも、13を10本!を登りたいなぁ。12以上100本も達成したいな。を目標にがんばっている日々を綴るクライミング日記。でも、最近はハイキングと沢登りばかりです。


by ヘビークライマーきん